尺間山と登山

――山からの小さな挨拶――

9月20日、尺間山へ登った。

今回の参加申し込みは、前日までに14名。
思っていた以上に多くの仲間が集まった。

尺間山は、山頂にある神社で「魔を払い、厄を除く山」として知られている。年末から正月にかけては、道路から山頂まで人の列が途切れない様子が、テレビや新聞などでも紹介される。

そんな映像を見ているからだろうか。

「一度、尺間山へ登ってみたい」

そう思う人が多かったのかもしれない。


9月17日――三人で下見へ

9月17日。

天さん、松さん、そして私の三人で、尺間山の下見に出かけた。

登山道を歩き、山頂付近を確認する。
トイレの場所も確認した。

大きな問題はなさそうだった。

昼食をとりながら、山頂近くの空気を感じていると、不思議と「神の山」という言葉が頭に浮かんだ。

「ここなら大丈夫だろう」

三人とも、そんな気持ちになった。

そして、9月20日の登山を決めた。

ところが――。

帰り道、少し寄り道をして津久見市方面へ向かった。

彦岳の登山口も確認しておきたかったからである。

車を走らせて5分ほど経ったころだった。

「ん?」

道路脇に何かいる。

よく見ると、ウリボウだった。

いや、一匹ではない。

三匹いる。

道路右側の斜面は、土や小石がむき出しになった、かなり急な斜面だった。角度は80度近くにも見えた。

その斜面を、三匹のウリボウがほぼ横一列になって登っている。

後ろ脚を滑らせながら、それでも一生懸命に上へ進んでいく。

そして、ときどき後ろを振り返る。

私たち三人を見る。

目が合った。

その目は、私には不思議なほど優しく見えた。

「また、おいでよ」

そう言っているような気がした。

三匹は斜面を登り切ると、帽子のように草が覆いかぶさった場所へ入り、そのまま草の中へ消えていった。

親イノシシの姿は見えなかった。

それでも、三人とも、しばらくその場所を見ていた。

山は、時々こういう出会いをくれる。


もう一つの出会い

しばらくすると、今度はハクビシンが現れた。

また目が合った。

こちらをじっと見ている。

「また来てね」

そんなことを言われているように感じた。

すると天さんが、

「実はハクビシンには困っているんだ」

と話し始めた。

自宅の庭に、連日のようにハクビシンが現れるという。

ところが、困ったことに、土の中でも草の中でもなく、花の根元でもなく――

きれいにした庭石の上に用を足していくそうだ。

毎日、水で庭石を洗っているという。

「ここにいるハクビシンも、同じようなことをするんだろうか」

天さんは、少し困った顔をしていた。

山で出会ったハクビシンには、私たちは「またね」と思った。

けれど、家の庭に来るハクビシンには、

「できれば、ほどほどにしてくれよ」

と言いたくなる。

同じ動物なのに、場所が変わると人間の気持ちも変わる。

そんなことを思いながら、三人で笑った。


9月20日――いよいよ尺間山へ

そして9月20日。

14名の仲間と尺間山へ向かった。

この日、伊藤さんも参加した。

病院の院長先生に、この日だけ参加する許可をいただいたという。

一番山に慣れている森迫さんと二人でチームを組み、山頂を目指した。

無事に頂上まで登る。

まずは一安心。

そして下りも、二人で無事に歩ききった。

伊藤さんは、そのまま病院へ向かった。

後から届いたメールには、参加できたことを本当に喜んでいる様子が伝わってきた。

一日も早く元気になって、また皆の前に姿を見せてほしい。

そう願っている。


100段の階段の前で

もう一人、100段の階段を見たところで、登るのをやめた人がいた。

私は、それでいいと思う。

無理をして登る必要はない。

その人は自然が好きで、一人で過ごす時間も楽しめる人だ。

階段の前に腰を下ろし、皆が下りてくるのを待っていた。

けれど、それは「待っているだけ」ではなかったのかもしれない。

人が少なくなった静かな時間。

鳥の声を聞き、山の空気を感じ、何かを考える。

歌が生まれるかもしれない。

詩が生まれるかもしれない。

あるいは、何も生まれなくてもいい。

一人でいる時間そのものを楽しむ。

それもまた、自然との付き合い方なのだと思った。


「階段は140段ある?」

昼食のとき、穴見さんが面白い話をしてくれた。

「私は階段を数えながら登ったけれど、下りまで合わせると140段ぐらいあった」

という。

これまで私たちが思っていた段数とは、少し違う。

新説が生まれた。

さて、本当は何段あるのだろう。

いつかもう一度確認してみたい。

山には、登るたびに新しい発見がある。


昼食を囲みながら、次の山の話

昼食を囲みながら、来月の年間計画について話が出た。

候補は高崎山。

ところが、15日ほど前に高崎山で遭難事故があり、死亡事故になったという話も出た。

そのこともあり、

「高崎山は少し考えたほうがいいのではないか」

という声が、半分ほどの人から出た。

山は楽しい。

しかし、楽しいだけではない。

私たちは皆、それなりの年齢になっている。

だからこそ、安全を第一に考えなければならない。

そこで、以前計画して一度はキャンセルした「ザビエル道路」を候補にすることになった。

別府市から日出町方面へ続く道である。

「一度、下見に行ってみよう」

そう約束した。

次の山は、まだ決まっていない。

けれど、次の山を考えている時間も、山の楽しみの一つなのだろう。


山を下りながら

尺間山を無事に下り、登山口付近まで戻ってきた。

今回は連休の初日。

この先、五連休になる。

それぞれに予定もある。

そこで、皆さん早めに散会することになった。

振り返ってみると、今回の尺間山は、単なる登山ではなかった。

山頂まで登った人。

途中で階段をやめた人。

病院へ戻った人。

仲間を待ちながら、一人で自然を楽しんだ人。

そして、下見の日に出会った三匹のウリボウと、一匹のハクビシン。

みんな、それぞれの山との付き合い方がある。

山は、人を同じ歩幅に揃える場所ではない。

それぞれの体力で歩き、

それぞれの場所で立ち止まり、

それぞれの心で山を感じる。

私は今回、そんなことを教えられたような気がする。

9月17日に出会った三匹のウリボウは、今も山のどこかにいるのだろうか。

あの優しい目を思い出す。

「また、おいでよ」

そう言っていたような、あの目。

次の山へ向かうとき、私はきっと思い出すだろう。

山は、登った頂上だけが思い出になるのではない。

途中で出会ったもの。

仲間と交わした言葉。

登るのをやめた人の静かな時間。

そして、ふと目が合った小さな命。

そうした一つ一つが積み重なって、

私たちの「山の思い出」になっていくのだと思う。


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